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「ルポ 悼みの列島」室田元美 社会評論社

 

「ルポ 悼みの列島」 室田元美 社会評論社

 

室田元美さんの著作では最初に「土地の記憶」(2018年)を紹介しました。

 

それは「中国・万人坑」という日本(軍)により中国国内の鉱山や鉄道建設などに徴用(強制的に働かされたこと)され過酷な労働の末に命を落とした中国人をそのまま地中に葬った「人捨て場=万人坑」を訪ねた青木茂さんの講演会場で「土地の記憶」の紹介チラシを室田さんから頂いたことがきっかけでした。

 

先に感想を記したように「土地の記憶」では日本人(軍)が成した悪逆非道な歴史的事実を掘り起し、世に明らかにし、語り継ぐグループが日本全国にそれぞれは少数ではあっても数多く存在することを知りました。また、父親たち日本軍兵士の家族の中国・朝鮮・アジアの戦争被害者への謝罪とはその家族の今ある要求や願いの実現の為に力を尽くすことなのだと気付かされました。

 

 

 

「土地の記憶」に「PTSDの復員日本兵と暮らした家族が語り合う会」の活動方向の道筋を見えたと感じた私は室田さんの最初の著作も読みたいと思い直ぐに取り寄せました。

 

「ルポ 悼みの列島」(2010年)は「土地の記憶」の8年前に世に出ている。下記の通り全国23か所を室田さんは訪ね日本各地で語り継ぎ、掘り起し、中国・朝鮮の戦争被害者(その家族)と寄り添おうとしている活動を紹介している。

 

PTSDの復員日本兵と暮らした家族が語り合う会」は従軍した父親たちが戦争によってPTSDの状態になり満足な社会生活が営めず、本人だけでなくその家族も負の連鎖を被った。その事実を広く世に知らせたい。言わば「私たちも戦争の被害者だ」というところから出発した。しかし、日本が起こした戦争で日本軍に殺されたり蹂躙された中国・朝鮮・アジアの人たちこそ最初に上げられるべき被害者・犠牲者だという簡単な図式に直ぐに行き当たった。その人たちを抜きにして「PTSDの復員日本兵と暮らした家族の問題」の解決の落ち着き先もないし、被害者にも支持してもらえる活動でなければ「2度と戦争を起こさない」日本の運動も本物ではないし、アジアの人たちに信頼してもらえなければ何の力を及ぼさないだろうと思う。意味がないと私は思う。

 

 

 

強調された告発の文や姿勢を私はこの頃好まない。自分自身にも関係があると反芻した形跡が欲しいと私は思う。批判するのはたやすい。じゃあ自分は何をするのかが大事だと思う。その心が人の心を動かすのだと思う。

 

ルポに紹介された活動を続ける人たちは反芻の波動がいつも心の片隅で動いていると感ずる。

 

すべての発端が戦争を始めた自分たちの親や祖父母が成したことと分かった時からそれは続いているように思う。室田さんの静かな筆の動きが淡々と綴られた文章がひたひたと私の心に沁みて来る。それは室田さん自身が取材対象者と向き合いながら同じく自分自身とも向き合っているからなのだと思う。室田さん自身が心の片隅で反芻を続けているのだと思う。活動を続ける人たちや室田さんのその姿勢に私は感動する。私もそうありたいと思う。

 

被害者は年老いて死んでもその子どもたちや家族は生きている。親や祖父母の成したことに私のように戦後生まれた子どもや孫に直接の責任はない。しかし徴用工問題では未解決だと被害者とその家族が声を出し、失ったものを回復しようとする運動は続いているのだ。どうしたら解決できるのだろうか。被害者の言い分を、彼らの心の内に耳を傾け向き合うことが出発点だと思う。そして被害者が(双方が)納得できる方策を話し合うことしかないと思う。どれだけ時間がかかろうと。

 

 

 話し合いを続けて、いつかは握手の手を差し伸べてもらうのだ。隣国に住む者同士がいつかは和解し仲良く生きて行くのだという希望を持ち続けることが大事だと思う。成したことはどのようにしても元には戻らない。取り返しはできない。だとしても、取り戻す方策を見つけるしかないのだと思う。私の代で解決するには時間がない。申し訳けないが次の世代に引き継ぐ責任が私たちにはあると思う。いつか隣人同士仲良くしてほしい。肩抱き合って進む姿を見てみたいと思う。その兆候でも良い、私たちは作らねばと思う。

 

 

 「ルポ 悼みの列島」では全国各地で日本の戦争による中国・朝鮮・アジアの被害者の歴史を語り継ぎ残していこうと活動を続ける人たちの声が紹介される。私はこの人たちの活動を高く評価する。続けて来た事に本当に感謝したい。励まされるし、力を貰う。この人たちが活動を続ける事こそがいつの日か「アジアの被害者」と日本人が握手できる日を手繰り寄せる道筋のように思う。彼らはアジアの被害者の心に寄り添おうとしている。何とかつながり合おうとしている。

 

 徴用工問題で日本政府も関係企業も発生責任の場面に立とうとしない。そこに立ち帰り、絡んだ糸を解きほぐすことから始めるしかないと思う。政府批判を繰り返しても事は動かない。今はそういう場面だ。

 

「ルポ 悼みの列島」の人たちの努力を引き継ぐこと。応援すること。大きくしていくことの先に解決の方向があると私は思う。

 

 

 

以下、紹介された各地の活動を目次で紹介する。

 

 

 

2019.5.21 黒井秋夫。

 

 

 

  レジャー湖の水底で起こっていたこと。神奈川県・相模湖ダム。

 

  地図から消された、毒ガスの島。広島県・大久野島。

 

  8月は,もうひとつの鎮魂の月。京都府・舞鶴 浮島丸事件。

 

  骨を掘る、若者たち。北海道宗谷郡・猿払村。

 

  ひとの命の重さが計られた。長野県・松代大本営。

 

  「首都防衛」の名残を歩く。千葉県・館山。

 

  「従軍慰安婦の碑」は語る。千葉県・かにた婦人の村。

 

  大都会のミステリー、人骨の謎を追う。東京都・陸軍医学校跡地。

 

  異国で被爆した人びと。長崎県・岡まさはる記念長崎平和資料館。

 

  朝鮮半島との古い交流と、あの戦争。大阪府・タチソのトンネル館。

 

  Yデーに備え、地下壕を掘った。横須賀市・貝山地下壕。

 

  住民の心にも残る「とげ」。秋田県・花岡事件。

 

  日中友好と反戦平和のために。埼玉県・中帰連平和記念館。

 

  鉱山で生きた人びとの記録。京都府・丹波マンガン記念館。

 

  心に刻み、石に刻む。神戸港・平和の碑。

 

  公害と労働運動、そして強制連行。栃木県・足尾銅山。

 

  行動するミュージアム。東京・アクティブミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」Wam。

 

  同じ悲劇をわかちあうことの意味。東京都・東京大空襲。

 

  破れた海の底に眠る人びと。山口県宇部市・長生炭鉱。

 

  それでも飛行機をつくろうとした。愛知県・瀬戸地下軍需工場。

 

㉑語れる人がいなくなった、その後も。東京都・関東大震災。

 

㉒抵抗の歴史から生まれたもの。高知県・平和資料館 草の家。

 

㉓鉄と石炭と戦争。福岡県・八幡と筑豊。