先輩たちのように。
樹木希林さんの最後をNHKのドキュメントで見たが、撮影スタッフを気づかったりする落ち着きに圧倒された。田部井順子さんが高校生を富士登山に引率するドキュメントも凄かった。自分がガンの為に呼吸が苦しいのに「時間がかかっても必ず登頂できる」と若い人たちを励ますやり取りは、鬼気迫る映像だった。
かつて月山や、安達太良山、新潟の山に何度となく同行したI さんは、ガン宣告から何カ月もせずに旅立ったが、彼は妻に家庭菜園の世話をメモにして託したと聞いている。最後に臨んでもごくごく日常的な事柄を淡々と送っていたように思える。
青年時代に反戦活動を共にしたTさんはホスピスの枕元に手塚治虫のブラックジャックが積んであった。彼は京大に籍を置いた論理明晰な活動家だった。あと1~2か月の最後にブラックジャックを読む心境は私ははかりかねた。
もう何度と読んだに違いないが何が疑問で何を確かめたかったのだろうか。
いずれもガン患者の先輩で今はもうこの世にいない。
私は主治医から「あと5年は大丈夫です」と言われた。「最短でも5年は生きられる」ということと理解している。もし、そうなら偶然にも父親や兄と同じ76歳の人生ということになる。本当のことは死ぬまで分からない。希望通りもっと長生きできるかもしれないし、短いかもしれない。
9月11日開始の35回の放射線治療は明日で終了する。
先週、放射線治療科の医師に「今回の治療結果はいつ判明するのか?」と質問したら「長い人生の中で分かる」という返答だった。まともに答えていない!と腹が立ったが、治療前に「PSA数値では根絶できたように見えても、更に微小なガン細胞で再再発する可能性がある」と言われたことを思い出した。そのことを言っているのなら医師のいうことは正しい。私が求めたのは「今回の治療の取りあえずの成果はいつ分かるか?」と聞いたのだが、「ガンは数値に一喜一憂する病気ではない」という医師の戒めだったかもしれない。
確かに先輩たちは泰然としてガンと生きガンに死んだ。
私もそのように生きることができるだろうか。自信がない。
テレビで見たホスピスの医師は真心と笑顔で末期のガン患者に接して、最後の安寧を与えていた。
ところが、彼は自分自身が末期ガンの宣告を受けたら精神が不安定になり、半ば錯乱状態になり医師を続けられなかった。生前からは想像できない目を疑うような最後の姿だった。
私はどちらだろうか。
2019.11.5 黒井秋夫。